KERRI CHANDLER
もし音楽制作の道を歩んでいなければ、おそらくコンピューターエンジニアになっていただろうと語るハウス界きっての知性派DJ”KERRI CHANDLER”。その音楽に向き合う姿勢も真面目そのものだ。
来日するDJの中にはかなりの好き者で知られる猛者も当然いるのである。フロアを舐めるように見渡し、お持ち帰りできる女(男)を物色するなどの行為は日常茶飯事。中にはそれが楽しみでDJをやっているのかと思われる連中もいないではない。だがケリ−の場合、女性の方からアプロ−チしても、おいそれと誘いに乗ってくるわけでもなく、あくまでも紳士的な態度を貫きとおしているのである。(ゲイではないと思うが)おそらくDJをしている最中でも、この曲のアレンジは俺ならこうするとか、ここでコ−ラスが入ったら最高なのにとか、そんなことばがり考えているのが容易に想像できる。ハウス命というか、とにかく典型的なワ−カ−ホリックなのだろう。クラブという自分が主役になれる場所において、そのストイックな姿勢は賞賛に値する。えらい!ブ−スの横に女をはべらかし、ホテル通いばかりしているDJにはぜひ見習ってもらいたいものである。(一説によると、ケリ−は若い頃に遊びすぎ世界中に自分の子供が散らばっているという噂が。。。やはり相当懲りているのだろうか)
ハウスにも他の音楽ジャンルと同様に、その根底には、音の美の資質、つまり音楽性(ミュ−ジカリティ)が横たわっている。彼もまた優れたDJとしてだけではなく、ミュ−ジシャンとしての資質に恵まれた稀有な才能の持ち主であることは、その作品を聴けば明白だ。そこには、時代やジャンルを超えた普遍的な音楽性、崇高なスピリッツを強く感じることができる。
ケリーのミックスの特徴としてよく上げられるのは、低音域のボトムの効いた独特のイコライジングだろう。彼の作るトラック同様ベースラインの輪郭のはっきりした、それでいて包み込まれるような重低音は病み付きになるほど心地いい。また見過ごされがちなのが、ジャズのエッセンスを盛り込んだ技アリのコ−ドチェンジ。以前からそういった傾向の曲をよくプレイしていたが、マイナ-からメジャ-に転調する時の一種の開放感、高揚感は筆舌に尽くしがたいものがある。天才肌のクリエイターにして、お皿を回しても独自の世界を演出できるという数少ないアーチストの一人なのだ。
コンピューター大好き人間らしく、自身のプレイタイムの際は必ずといっていいほどノ−トPCを持参してきており、リリ−ス前の自作の曲や、エフェクトで加工された飛びネタを流すこともあるようだ。また最近では、プレイしている最中に唐突に曲に合わせて歌い出すというパフォ−マンスを披露することもあるという。今後の展開にますます目が離せない。